おいでよ!エルフの森7!
ここは剣と魔法のファンタジーの世界にあるエルフの森。
その昔、エルフは人間よりも優れた魔法技術を持っていたのだが、邪悪な魔王の手によって重度のジャンキーになる呪いをかけられてしまい、今では見る影もない。
そんな森の奥深くに暮らすエルフに美少女がいた。彼女の名前はジャンヌ。マリファナが大好きな普通のエルフだ。
ジャンヌと共に暮らすのはアル中のリリアンヌ。「あー、今日もお酒美味しいなぁ」彼女はお気に入りの木箱に座っている。木箱には彼女がいつも飲んでいる芋焼酎が入っている。彼女にとってこれが命の水なのだ。
「ん? 誰か来たのかしら?」
森の中からこちらに向かってくる足音が聞こえてくる。どうやら誰か来たようだ。
(まさか……村長じゃ無いでしょうね!?)
ジャンヌは慌てて立ち上がった。そして銃を構える。いつでも戦えるように準備したのだ。もしこの場に現れたものが村長だった場合、最悪撃ってしまっても構わないだろう。だが、もしも違う人物ならば……。殺そうとしても村長なら死なないだろう。しかしそれでも殺すつもりは無い。ジャンヌは死にたくないからだ。
「誰だ?…あれ??」
そこに居たのはエルフの少女であった。彼女はジャンヌ達の姿を見ると安心したような表情を浮かべた。どうやら敵意は無さそうだ。
見たことの無い少女がいる。年齢は16歳くらいだろうか。彼女は薄汚れてボロ布のような服を着ている。髪は長くボサボサで、肌は不健康に荒れ垢まみれでやつれている。シャブ中の見本のような少女だ。(これは……ヤク中か?)
ジャンヌは警戒心を少しだけ上げた。
「えっと……どちら様でしょうか?」
ジャンヌは恐る恐ると聞いた。すると少女が口を開いた。
「わたしの名前はアリシア・ウォーカーですわ!! 偉大なる神の声に導かれこの地に参りました!!!」
こいつはシャブ中だ。せん妄状態だ。(こいつ絶対シャブ中じゃん!!!)
ジャンヌは安堵していた。目の前の少女は明らかに狂っているように見える。しかもかなり重症に見える。恐らくまともな会話は難しいだろう。とりあえず落ち着かせようと考えたジャンヌは彼女に優しく語りかけた。
「落ち着いてください、シャブを打てば冷静になりますよ」ジャンヌの言葉を聞いた途端、アリシアの顔つきが変わった。まるで親の仇でも見つけたかのような憎悪に満ちた目をしている。
「うるさい!!! 黙りなさい!!」
いきなり怒鳴られたことに驚いたジャンヌであったが、すぐに気を取り直して再び話しかけようとする。しかしその前にアリシアの方が先に話し始めた。
「私をバカにするんじゃないわよ……私は正真正銘本物なんだから!!!」
そう言って彼女は懐から何かを取り出した。それは小さなガラスの小瓶に入った透明な液体だった。ジャンヌはその小瓶に見覚えがあった。里のエルフ達がよく持ってるヒロポン3mgアンプルだ。(やっぱりポン中だった……)
「ほら! 見てみなさい! これがあればどんな病気も治すことができるのよ!!」
ジャンヌは思った。間違いなくヤク中の戯言だと。ヒロポンで本当に病が癒せるわけが無い。しかしジャンヌにはどうすることも出来ない。下手に手を出すと何をするかわかったものでは無い。
「わかりました。信じる事にします」ジャンヌは適当に返事をした。とにかく早く帰って欲しいのだ。「ふんっ。わかればいいのよ!」
完全に自分は正しいと思い込んでいるアリシアを見て、ジャンヌは自分の判断の正しさを確信した。
その時、リリアンヌがあることに気付いた。
(あれ? この子どこかで見た事がある気がする…)
どことなく村長の面影がある。この子は一体何者なのか? もしかすると村長の親戚かもしれない。だがあの村長の親戚にしてはあまりにも不出来すぎる。そんなことを考えていたリリアンヌだったが、ふとあることを思い出した。(あれ? この子の目元……村長に似てるような……まさか……)
リリアンヌはある考えに至った。もしその通りならばこの子がここにいることは辻妻が合う。ジャンヌは深呼吸をして、意を決して質問した。
「あなた……ひょっとして……村長の曾孫?」
「え? はい……そうですけど……」
(ビンゴォオオオ!!!)リリアンヌの心の中で歓喜が湧き上がった。
(つまりリリアンヌの姪…)(姉さんの娘……)
ジャンヌも遅れて理解した。そして、同時に頭を抱えたくなった。
(うそぉ……)まさかリリアンヌの親族が来るとは思ってなかったのだ。
(あぁ……めんどいな……)ジャンヌは考える事を止めた。もう何もかも面倒になったのだ。
「私は神だ!私は神だ!あーーはっはっは!!!」
高笑いをしながら銃を乱射し始めるヤク中の少女アリシア。彼女は今、とてもハイになっているようだ。
「お前たち全員ぶっ殺してやる!皆殺しじゃああ!!」
「ちょっと落ち着け!!」
興奮した様子のアリシアを落ち着かせるため、アリシアを殴り付けた。彼女が意識を失うまで殴り続けた。
「……」
アリシアは気絶した。仕方ないので地面に寝かせたままにしておくことにした。ジャンヌ達は家の中へと入って行く。ジャンヌはアリシアについて知っている事を話すように求めた。
「えっと……彼女が私の従姉妹のアリシアです」
「そうなんですか〜」
「はい、名前は知っていましたが、会ったのは初めてですね。……ところでどうしてこんな所にいるんでしょうか?」
「さぁ、なんでしょうね〜?」
「……やっぱりシャブ中ですか?」
「おそらくは……村長にそっくりだし…」
シャブを打ち銃を乱射。村長そっくりだ。
「とりあえず起こしましょうか?」
「お願いします」
ジャンヌがアリシアを蹴り続ける。彼女はすぐに目覚めた。
「ここはどこだ!? 敵はいないのか!!」
「落ち着きなさい」
ジャンヌが再び殴った。再び気を失った。その後、ジャンヌはアリシアに詳しい事情を聞くために起こした。また暴れないように注意しながら話を聞いたところ以下のことが分かった。
・自分は偉大なる神の啓示を受けてこの地に来た。
・人間を滅ぼす為にやって来た。
・自分は偉大な預言者だ。
・まず手始めにこの村を潰す。
「嘘つけ!!」
ジャンヌは再びアリシアをぶん殴って気を失わせた。
「ダメだこいつ……早く何とかしないと……」
「どうするのコレ?」
「とりあえず村長の家に連れて行きます……これ以上問題を増やさない為にも」
結局ジャンヌ達はアリシアを村長の家に捨てに行くことにした。村長の家は質素であるが、広い家である。客間の一つを貸してもらいそこにアリシアを置いておくことにしよう。
後は知らない…アリシアは来なかった…自分は悪く無い…
ジャンヌは自分に言い聞かせた。「はぁ……」
ジャンヌは大きな溜息をつく。疲れがドッと出た。
今日はもう休もう。そう思い、自分の部屋に戻るのであった。
「はぁ……」
ジャンヌは深い溜め息をついた。
(村長一族はプッツンしかいないのか?)ジャンヌの悩み事は尽きないのだった。
リリアンヌの姪アリシアがエルフの里にやって来てから二週間ほど経過したある日のこと…
『神になるのだ!!私は神になるのだ!!神になるのだ!!!』
アリシアの叫び声が聞こえる。
[パーン!パーン!パーン!パーン!]
(うるせぇなぁ……)
ジャンヌは耳を押さえながら思った。ここ最近毎日のようにあのヤク中の絶叫を聞いている気がした。
あの後、村長宅にて目を覚ましたアリシアは自分が何故ここに居るのかわからず混乱していた。
そして、村長とアリシアは意気投合しあれから毎日暴れていた。
村長が言うには昔よく一緒に遊んでいたらしい。
「あの子はとてもいい玄孫だ」とのこと。だが今はただ迷惑でしかない。アリシアを村長に押し付け、よかったと思ったが後の祭りだ。
「おらぁーーーーーー!!」
アリシアの雄たけびと共に銃が発砲される音が鳴る。
「……」
ジャンヌは無言のまま窓の外を見た。そこには村長と一緒に森の奥へと消えていくアリシアの姿があった。
「何度見ても狂気しか感じられないんだが……大丈夫なのかアレで……」
ジャンヌは心配になった。
「ま、いっか」
考えるのを放棄した。
ジャンヌは気分転換の為に外に出ることにした。
外は晴れており、気持ちの良い日差しが降り注いでいた。
「はぁ……」
ジャンヌは深く深呼吸をする。空気がうまい。
[パーン!パーン!パーン!]森の中から聞き慣れたアリシアのトカレフの発砲音が響く。
「ふぅ……」ジャンヌは歩き出した。特に目的地は無いのだが、自然豊かな景色を見て癒されたかったのだ。しばらく歩くと大きな湖が見えてきた。その畔に腰掛けて、空を見上げる。
雲一つない青空が広がっていた。
「あー、平和だな……」
[バン!バン!バン!」村長の44マグナムの発砲音が鳴り響く。「……」
ジャンヌは現実逃避することにした。
その後、一時間ほどで村長達も飽きたらしく発砲音が聞こえなくなった。
「ようやく静かになったか……」
ジャンヌは立ち上がり大きく伸びをした。懐から巻き紙とマリファナを取り出し素早く巻き火を着けて吸った。
「ふぅー…」ジャンヌは煙を吐き出した。美味い煙だ。
「さて、帰るか…」今日の夕食は何だろうか?丁度お腹も減ってきた。
「ただいまー」ジャンヌが帰宅すると、リリアンヌが食事の用意をしていた。
「おかえりジャンヌ」リリアンヌは笑顔を浮かべる。「今晩はシチューですよ」
「やったぜ」
ジャンヌは手を洗い、食卓に着く。リリアンヌが隣に座ってくる。
「はい、パンです。熱いうちに食べてくださいね?」
「いただきます」
ジャンヌは早速スプーンを手に取り、シチューを口に運ぶ。
「うんめぇ!!」
「それは良かった♪ 作った甲斐がありましたよ〜」
「最高だよ!!」
「あらあら……」(なんか新婚みたいだな〜)ジャンヌは幸せを感じていた。ジャンヌ達が食事をしていると、突然発砲音が鳴り響いた。「またあいつか!?」ジャンヌは急いで玄関へと向かう。そこには案の定アリシアがいた。
「テメェいい加減にしやがれ!!今度は何をするつもりだ!!」
ジャンヌは怒鳴りつけた。
「神になるのだ!!」アリシアは叫んだ。
「さっさと帰れ!!」扉を閉めた。「はぁ……」
ジャンヌはため息をついた。最近は毎日こんなやり取りをしている気がする。
「あの子どうしました?」
リリアンヌがやってきた。ジャンヌは事情を説明した。
「はぁ……」リリアンヌは大きな溜息をついて、額に手を当てた。「なんなんだ一体……」
リリアンヌは台所に戻っていった。
(疲れてるんかな………)
ジャンヌは自分の部屋に戻り、ベッドに横になって考え事を始めた。
最近のエルフの里についてである。アリシアが来てからというもの、エルフの里では銃の乱射遊びが流行っていた。みんなが皆お気に入りの銃を昼夜構わずぶっ放すのである。おかげで森の木が何本か折れたり燃えたりする始末だった。
アリシアが来る前は村長夫妻くらいしか銃を乱射し無かった。少なくともジャンヌはそう記憶していた。
(まぁいいけどな……)
ジャンヌは考えることをやめた。
翌日…… アリシアは懲りずにやって来ていた。
「修行するぞ!修行するぞ!修行するぞ!解脱するぞ!!」アリシアは叫びながら銃を乱射した。トカレフが2丁に増えている。「うるせえ!出てけヤク中が!」ジャンヌは怒鳴る。
「修行するぞぉおお!!!」アリシアは銃を撃ちまくっている。
「もういいじゃないですか……大人しくしてましょう……」「だが断る!!」アリシアは叫ぶ。
「はぁ……」リリアンヌは深い溜息をつく。
ジャンヌは考えたくなかった。これ以上厄介ごとが増えるのは勘弁願いたかった。
しかし、その数日後に事件は起きた。
ある日のこと……[ドォーン!!!]轟音と共に地面が大きく揺れ動いた。
「何だ!?」ジャンヌは慌てて外に出た。
そこには巨大なキノコ雲が立ち上っており、爆心地を指差しながらゲラゲラとエルフ達が笑っていた。「あれが神の炎だ!」
「ついにやったか!」
「これで我らの悲願も達成される!」
『あー、あー、テステス』
どこからともなく声が聞こえてきた。ジャンヌはその方向を見る。村長宅前の広場に魔導拡話器を持ったアリシアが立っていた。
『見たか!皆の者!愚かなる人間共に正義が行われた!』
どうやら人間の街が爆破されたようだ。
「おい、まさかお前の仕業か?」ジャンヌはアリシアに向かって言った。
「そうだ、我が力を思い知らせてやったわ」アリシアは不敵に笑う。
「はぁ…」ジャンヌは脱力した。アリシアは厨二病を併発していたようだ。
シャブ中で厨二病
とか救いようがない。
「私は神になったのだ!!」アリシアは叫んだ。
「はいはいそーですねー」
ジャンヌは適当にあしらうことにした。正直これ言って相手にするのが面倒くさかったからだ。
「我こそは女神にして全知全能のアリシア・バートレットである!!」
「へー」
「よって私が人間共に天罰を与えた」
「ふぅん」
ジャンヌは完全に興味を失っていた。早く帰って一服したいなぁと思っていた。
「聞いておるのか?」
「ハイヨー」ジャンヌは欠伸をした。
(面倒だ、このまま帰ろう)ジャンヌはアリシアを放置し帰ることにした。
「ただいまー…」ジャンヌは家に帰った。
ジャンヌは自室に戻り、パイプを取り出しマリファナを詰め火をつける。深く煙を吸い込み、ゆっくりと吐き出す。
「ふぅーーーー…」煙が吐き出される。そしてジャンヌは考え始めた。
しばらく考えてジャンヌはあることに気付いた。
「しまった…今日の夕食は私の当番だった…何か作らないと…」ジャンヌは台所に行き冷蔵庫を開ける。中には大量の酒瓶があった。
(うっ……今日は何にも買ってないな……)
ジャンヌは買い出しに行く事になった。ジャンヌは近くの肉屋へ向かった。
「へい!らっしゃい!」店に入ると威勢の良い挨拶が飛んできた。この店の店主だ。
「おう、親父さん、豚肉あるかい?」
「あいよ!豚バラで良いかい?」
「それで頼む」ジャンヌは財布からお金を出した。「毎度ありぃ!」
(さっさと買い物済ませちまうか)
次は八百屋のおばちゃんの所に行った。
「あらぁ!ジャンヌちゃぁん!いつもありがとうねぇ!」
「すいません、ジャガイモ5個貰えますか?あと玉ねぎも」
ジャンヌは代金を払って店を出る。
「いつもありがとうね、また来てね!」
「はーい!」
(疲れた……)
ジャンヌは重い足取りで帰路につく。
「帰ったぞー……リリアンヌは居ないか……はぁ……飯作るか…」
ジャンヌはマリファナを吸いながらカレーを作ることにした。幸いカレー粉はあった。
具材は豚肉に人参じゃがいもタマネギ、それにリンゴを入れればいいだろう。後は煮込むだけだ。
「よし完成っと!」
ジャンヌは料理が完成したことに満足しリリアンヌが帰るまでマリファナで一服する事にした。
グラインダーで砕き、巻き紙に置く。くるくると巻き上げジョイントの完成だ。
火を付け煙を吸い込み…うまい…至福の時間だ……。
ジャンヌは幸福感に包まれていた。
ガチャリ…… 玄関の鍵が開く音が聞こえてきた。リリアンヌが帰ってきたようだ。
リリアンヌは家に帰ってくるなり、部屋中に充満する匂いに顔をしかめた。
「臭いです……換気をしましょう」そう言い窓を開く。冷たい風が入り込んできて少し寒い。
「おかえり、今食事用意してやるから待ってくれ」ジャンヌは鍋からカレーを盛り付ける。「美味しそうな香りですね」リリアンヌはテーブルに座り、食事を待っていた。
「ほれ、出来たぞ、食べてくれ」「いただきます」二人でいつも通りの食事だ。
リリアンヌは焼酎をゴクゴクと美味しそうに飲み饒舌になる。
ジャンヌも久々に大麻樹脂をパイプで吸いながら話が弾む。
(アリシアが来てから色々と気にし過ぎたか?)
ジャンヌは自分が気にし過ぎている事に気付いた。
銃を乱射するのも前から村長夫妻が毎日やっていたでは無いか。
人間の街を爆破するのも里の誰かが時々やっているでは無いか。
リリアンヌと食事をしていたら段々といつもと変わらない事に気がついていた。
(気にし過ぎか…)
ジャンヌは考え事をしながらもカレーを食べ進める。
「ご馳走様でした」二人は同時に完食した。そして食器を流しに置き、ジャンヌはソファーに座った。
ジャンヌはジョイントに火をつけ一息つく。
「ふぅーーー……」気付くと隣にはリリアンヌがいた。
「どうした?」ジャンヌは不思議に思い尋ねた。すると突然リリアンヌに押し倒された。
どうやら酔っているようだった。ジャンヌはそのままリリアンヌを部屋に運んでベッドに寝かせた。
「寝るか……」
ジャンヌも色々と吹っ切れたせいか急に眠気が襲って来た。
早くベッドに入ろう。明日も銃声で目が覚めるだろう。
そんなことを考えながらジャンヌは眠りについた。
エルフの森は平和だった。エルフの森で武器の使用は日常茶飯事。
いつも通りの日常でいつも通り平和だった。
きっと明日も平和だろう。エルフの森はラヴ&ピース。
-END-