その昔、エルフは人間よりも優れた魔法技術を持っていたのだが、邪悪な魔王の手によって重度のジャンキーになる呪いをかけられてしまい、今では見る影もない。
エルフが暮らす森には違法に栽培された麻薬の原料となる植物が大量に栽培されており、エルフはその甘い蜜を吸って生きながらえているのだ。
そんな薬漬けの生活を続けていてもエルフ達は健康的だった。魔力が極めて高いエルフは常に回復魔法が掛かっているからだ。
「うぅーん、頭がふわふわしますねぇ〜」
リリアンヌは完全に酔っ払っていた。顔が赤い。
目がとろんとしていて頬も紅潮している。とてもかわいい。
ここはリリアンヌの部屋だ。リリアンヌとジャンヌは一緒に帰ってきたのだ。今日は色々あったなぁ…… ジャンヌは部屋を見回す。ベッドやテーブルなどの調度品は全て木製で質素だが、置いてある本棚などの小物はとてもオシャレである。きっと女の子らしい趣味なんだろう。
部屋の隅にある机の上に酒瓶が何十本と並んでいる。その全てが空になっているようだ。
こんなになるまで飲んで……まあ気持ちはよく分かるけどね!私だってもう何杯目か分からないくらいお酒を飲んだし!
私は下戸なので全く問題ない。
さてそろそろ寝ましょうかね? そう思い立ち上がろうとしたら袖を引っ張られた。リリアンヌの手であった。どうしたのかしらと思い彼女を見ると、潤んだ瞳でこちらを見ながら何かを訴えかけていた。これは……まさか!?︎ 彼女は自分の隣へ座るようジェスチャーする。仕方ないので言われた通りにするとそのまま肩にもたれかかってきた。そして私の腕を抱え込みぎゅっと抱きしめてくる。胸が当たっているんですが……。彼女の柔らかい感触を布越しに感じる。理性が崩壊しそうだ。
いかんぞリリアンヌ!!それはいけない!!! しかし、目を閉じ幸せそうな表情をしている彼女を見ていると何も言えなかった。
………………………………………… いつの間にか眠ってしまったようだ。窓から差し込む光が眩しい。朝になったみたいだ。昨日のことはよく覚えていないが何があっただろうか?……思い出せないということは大したことなかったんでしょう。多分。
隣の布団では下着姿のリリアンヌがすやすや眠っている。こっちまで裸になりそうになるから早く服を着て欲しいかなぁ…… リリアンヌが起きないよう細心の注意を払って服を身につけていく。下着姿の彼女が目に毒すぎるため極力見ないように気をつける。
服を着終わる頃には完全に覚醒していた。頭痛はない。二日酔いではないみたいだ。よかった。
朝食を食べようと居間へ行くために扉を開けると廊下に誰かいたようでぶつかった。誰だろうと確認してみると見知った人だった。
「おはようございます」
「ああ、おはよう」
そこにはリリアンヌの祖母である村長が居た。いつも綺麗にしている髭も艶無く疲れきった様子で顔色があまり良くない。
「体調悪いんじゃないですか?」
心配になって声をかける。すると彼は力なく笑みを浮かべ答えてくれた。
「大丈夫だ、少し寝不足なだけだ……」昨日から徹夜でシャブをキメていたのだろう。「……無理しないでくださいよ」
彼女の頭を心配しつつも、なぜこのタイミングで出てきたのか疑問を抱く。
村長は村で指折りのプッツンだ。嫌な予感がする……「お前達に話がある……」彼の目は虚ろだった。
これは絶対に面倒事が起きる気がするので逃げ出したくなった。……でも逃げられないよね〜分かってますとも。
とりあえず話を聞こうと部屋に案内することにした。
リリアンヌはまだ爆睡中だし起こす必要も無いでしょう。リリアンヌの部屋に戻ると彼女はまだ夢の中だった。本当に幸せそうなリリアンヌ。
村長は椅子に座り机に突っ伏した。
彼女が口を開く前に水を一杯出してあげた。
コップを置く音が合図となり、私たちは向き合う。「それで何でしょうか?」
私が尋ねると村長はゆっくりと語り出した。
「昨晩のことだがな……エルフの森で大規模な戦闘が起きたのだ」
それを聞いて血相を変えるジャンヌ。
まさかとは思ったけれどエルフ同士で戦争が始まったというのだろうか!?︎
「森の奥深くで薬物の栽培をしていた村人のアジトがバレたのだ。以前から怪しいヤツらが彷徨いていたが、昨夜の件で決定的となった。奴らは薬の製造工場を襲撃し、薬の原料となる植物を奪っていったのだ。そして我々への宣戦布告として連合国軍を名乗る書状を残して消えていったらしい。」
エルフからヤクの材料を盗むなんてバカな真似をしたもんだ…
「……その手紙にはなんと書かれていたんですか?」
ジャンヌは恐る恐る聞いた。
私は黙って聞くことにした。
「『我らは連合国軍だ。貴様らの作る麻薬は断じて許す事は出来ない。これより武力を持って制圧を開始する』だそうだ。ふざけた事を抜かす!」
怒りを顕にする彼女だったが、すぐに冷静さを取り戻した。
「だが、問題はそこではなく、これから起こるであろうことだ。」
そう言いながら一枚の紙を取り出し机に置いた。
その紙の一番上には大きく【宣戦布告】と書いてあった。
ジャンヌはそれを見て驚いた。
「人間共のふざけた宣戦布告によって我々は戦わなければならなくなった。もちろん戦うつもりだ。……しかし問題なのは敵戦力の情報だ。」
なるほど……確かに情報が少なすぎる。相手の数も規模も分からないまま戦いに挑むというのは自殺行為と言える。
「……相手の軍勢の規模とかは分かりませんか?」
「今調べている。異世界のドローンとかいう魔術装置は実に便利だ。」そう言って機械を取り出す。「こいつで偵察させている」
「えっ?そんな物あるんすか!?︎」
私は驚きの声を上げた。異世界にはこんな物まであるのか!!……村長は色々と説明していくが私には全く理解できない世界だった。
「うむ、これが空撮した写真だ」
そこには大きな城を中心に無数のテントや木造の家が立ち並び、かなりの数の兵士らしき者達が写っていた。
「詳しい数は分からんが数千人規模の軍勢だろう。今分析を急いでる」
「結構な大軍ですね」ジャンヌは腕を組み感心していた。
数は多いが剣や弓や投石器程度の軍が数千である。
エルフ達は有り余る魔力で異世界から頻繁に色々な物を召喚し調達していた。
銃器に弾薬、手榴弾やロケットランチャーに地雷から薬物の製造器具や実験器具、芥子畑の開墾用重機から果ては喫煙用のライターに至るまで何でも召喚していた。エルフの魔力は高いため無尽蔵に召喚出来た。
数千規模の軍隊なら地雷原は突破できないだろう。突破できても機銃陣地で蜂の巣だ。さらに上空からのドローンで爆撃も行えるらしい。エルフ達の勝利は揺るがない。
「……勝てますね」ジャンヌが安心して言った。
「ああ、楽勝だ」村長も自信満々に答えた。
エルフ達はドローンの偵察情報からから地図を作り敵の指揮系統も調べ上げた。
また進軍ルート上に地雷を埋め地雷原を作り上げ、更に塹壕を掘り機銃陣地も構築した。これならば敵軍は罠にかかり壊滅するだろう。エルフ達は異世界から無線機も召喚し精密な作戦も行える準備を整えていた。
後は敵の出方を待つだけだった。
ジャンヌとリリアンヌもその戦列に参加していた。
やがて人間の軍が進軍を開始する。森の中に張り巡らされた塹壕と地雷を見抜けず、爆発により負傷する兵士達。『死者よりも負傷兵』という言葉通り、彼らは地雷で次々と倒れていく。
指揮官は大声で怒鳴りつける。
「進め!我々の勝利は確実だ!」
だが既に勝敗は決していた。
地雷を踏んだ兵士が爆死すると、次の兵士は足を止めた。
「おい!止まれよ馬鹿野郎!!」仲間の死体を乗り越え前に進もうとするも腹部を撃たれ倒れる。次に進むのは困難だと悟った。
「くそったれぇー!!!」
彼は無謀にも突撃を敢行した。だがそれはエルフ達の思うつぼだった。
エルフの銃弾が降り注ぎ、彼の部隊は壊滅した。
一方的な戦いが終わり、勝利したエルフは意気揚々と凱旋し、リリアンヌは目を輝かせながら駆け寄っていった。
「お祖母ちゃん凄いですぅ〜!」
「ふふん、そうだろ。もっと褒めてくれても構わんぞ」
戦いに慣れているエルフ達は和気あいあいとその日の夜を過ごした。
一方連合国軍は地獄だった。
回収した負傷兵達で手一杯だったからだ。想定の何十倍も多い負傷兵に早くも医療物資が尽きかけていた。
「クソッ……なんなんだあの攻撃は……」
「知るかよ!」
「とにかく早く治療しないと死ぬ奴が出る!」
「薬はまだなのか!」
「足りない、足りねぇんだよ!」
「ちくしょう!」
「まずいな、このままではジリ貧だ」「どうすればいいんだ」
負傷者の収容作業と医薬品の補給作業を同時並行で行う事でなんとか戦線を支えているが、それも限界があった。「撤退すべきだ」
誰かが呟いた。そうだそれが良いと皆口々に同意した。
連合国軍幹部も撤退するべきだと思い本国に撤退の許可を求め早馬を出していた。明日の朝になれば本国から指令書が届くはずだ。そのはずだった。
翌朝になっても伝令は無かった。
連合国上層部は決断出来ずにいたのだ。
「どうなってる?なぜ許可が来ない?」
「こちらの事情など知りませんって事だな」
撤退命令が出せない以上進軍しかなかった。数を減らした連合軍は地雷原へ進軍を開始した。そして再び蹂躙される。
地雷原に嵌まり込んだ連合軍の将兵は逃げ場を失い、大量の爆薬に吹き飛ばされていった。ある者は地雷が爆発し下半身を吹き飛ばし、またある者は脚を吹き飛ばしていった。「あ、足がぁ……俺の、足がァアア!!!」
「痛え、助けて、嫌だ死にたくないぃ」
「何なんだよこれは!聞いてねえこんなの!!」
「神様、どうかお願いします」
彼らの願いは天には届かなかった。彼らは神に見放されていた。
エルフ達は笑いが止まらなかった。
「ぎゃははははは!!!ざまあみやがれ人間どもめ!!エルフの森を汚すからこうなるのさ!!お前らの血でこの森は赤く染まるのさ!!」
ジャンヌは狂喜しながら叫んでいる。「ああ、なんて素晴らしいのでしょう!貴方達が苦しむ姿が見れて幸せですわ!うふふっ、うふふっ、うふふっ、うふふっ、ウフフッ、キャハハッ!」
リリアンヌも興奮して笑っている。「これが戦争……すごい、楽しい……!私達の手で人が死んでいく……ああ、素敵……すごくドキドキする……!」
ジャンヌはリリアンヌを抱き締め喜びあった。「ああ、最高だねリリィ。あたしらの勝ちだ。」
エルフ達の損害は全く無かった。地雷原と機銃陣地によるワンサイドゲームだった。連合国軍自慢のロングボウは全く役に立たなかった。用意した投石器も易々と破壊された。
連合国軍の士気は崩壊寸前だった。エルフ達はそんな彼らを嘲笑いながら酒盛りをしていた。「ジャンヌ、ジャンヌ、もう我慢できないわ、殺そう、殺しましょう、全員皆殺しにしちゃいましょう!」
リリアンヌがジャンヌの手を握って言った。
「そうだねぇリリィ、今日は大盤振る舞いといこうじゃないか!酒だ!酒!」「はい!ジャンヌ酒よ!!」
二人はワインボトルを取り出しグラスに注ぐ。
それを一息で飲み干した。
「ぷはー!美味しい!」
「勝利の美酒は格別だぜ! くっくっく、あいつらが絶望する顔を想像するとワクワクするよ!」
ただでさえ凶暴なエルフ達はテンションが上がっていた。まるで悪魔のような邪悪な笑顔を浮かべていた。
翌日もまた敵軍は侵攻してきた。
地雷原に嵌り込み次々と爆発していく味方を見て、兵士達の表情は恐怖に染まっていた。
「くそったれ、なんなんだよこいつらは!?」
「知るか馬鹿野郎!!」「おい、何か来るぞ……」それは現れた。
「ぐぉおおおお!!」
「ひぃいいいい!!!」
戦争に飽きて来たエルフ達は機銃陣地からM2ブローニング重機関銃で一斉射撃を始めた。
重機関銃から放たれる12.7mm弾が兵士を挽肉に変えていく。
「ふははははは!!!」
「死ねぇ!」「血祭りじゃー!」
「オラ!もっと踊れよォ!」
「「「「ギャアアアアアアアアアアアアアア!!!」」
一方的な虐殺が始まった。
連合国の兵士は剣を抜き突撃した。
だが、地雷を踏み抜いた瞬間に爆散し、身体中の破片でズタボロになりながら絶命していった。
連合国軍は撤退すら許されなかった。
連合国軍総司令官は本国に撤退許可を求めたが回答は得られなかった。
代わりに届いたのは撤退命令書ではなく、撤退不可能を知らせる伝令兵からの連絡書簡であった。
撤退は不可能だった。連合軍幹部は撤退を諦め、反撃に転じた。
しかし、連合軍の装備では、エルフ達に傷一つ付ける事が出来なかったのだ。
結局、連合国軍は降伏する事にした。
降伏した人間達をエルフは奴隷として有効利用した。彼らにとって人間は家畜以下の存在であり、エルフの森の労働力として使われていた。
こうして、人類史上最も残酷な戦いは終わった。連合国は各国二割以上の兵士を失った。
多くの将兵が捕虜となり、生き残った者達もエルフ達に捕らえら奴隷にされた。
エルフ達は大喜びだった。貴重な奴隷を大量に手に入れたからだ。
負傷兵はエルフの回復魔法で治療され奴隷魔法を掛けられた。
これにより、死ぬまで働く忠実な下僕となった。
若い健康な奴隷が一気に手に入りエルフの森の麻薬生産量は格段に上がった。
そして、エルフ達は戦勝パーティーを開いた。
リリアンヌが歌った。
「♪〜 ♪〜」
「やめろ、止めてくれぇ」
「神がいるなら助けて」
エルフ達は狂喜していた。
「ぎゃははは!!人間どもめ、ざまあみやがれ!!」
「あははははっ!!最高!!人間って本当に惨めで愚かで、ああ、なんて面白いのでしょう!!」
エルフの森麻薬撲滅戦争は失敗した。兵士は捕まり奴隷にされ麻薬製造に従事させられ麻薬の生産量は劇的に増えた。
エルフの森は広大で土地はいくらでもあったが奴隷が足りず麻薬の生産量が伸び悩んでいた。
戦争で確保した奴隷を使い麻薬生産量を伸ばした。連合国は増えた麻薬の流通により国力が更に低下した。
数年後、連合国は軍事力の低下、麻薬による国力の低下、増税に次ぐ増税により一揆が多発し次々と崩壊していった。
奴隷達は絶望していた。捕まってから既に5年も経っている。
最初は『自分達は捕虜だし解放して貰える』と思っていた。だが実際は違った。彼等は麻薬製造に従事させられた。
例えばヘロイン製造は人件費を抑える事が肝心だ。ヘロインは阿片から作られる麻薬だ。1エーカー(4047平方メートル)の芥子畑から3〜9kgの阿片しか取れない。
芥子のさく果に深さ1mm程度の切れ込みを入れ垂れた液を集める。それが生阿片だ。芥子さく果1つから数日掛け平均60mgの阿片を集めるのだ。
阿片から有効成分のモルヒネを分離し、モルヒネからヘロインを化学合成する。
エルフの森で作られるヘロインの量は膨大だ。奴隷がいくら居ても足りないのが現状だ。
今日も奴隷達は芥子坊主から阿片をヘラで集め続ける。「糞ッ!なんなんだこの作業は!?」
「黙れ!口を動かす暇があったら手を動かせ!」
「ちくしょう!」
「おい、あのクソガキまたサボりやがったぞ!」
「お前、自分の仕事に集中しろ!!」
「うるさい、ほっといてくれ。それに俺には帰る場所なんか無いんだよ……」
「そうか。まぁ頑張れよ」「チクショウが!!」
「おい、早く来い!!」
「はい!」「分かりました!」
「明日も同じ時間に集合しろ!分かったか!」
「はい………了解です」
次の日……。
「作業を開始せよ!!」
奴隷達は芥子坊主に切れ込みを入れる。ひたすら切れ込みを入れる。
少し経つと阿片が滴る。次の奴隷が阿片をヘラで取る。
延々と続く単純作業を何万回も繰り返す。
「おい!何を休んでいる!?貴様の仕事はまだ終わっていないぞ!」
「すいません!」
「もう嫌だよ!」
「お願いします!殺してください!」
「駄目に決まっているだろうが!!」
「うわあああん!!!お母さん!!お父さん!!」
「泣くんじゃない!!」
「何で俺たちだけこんな目に遭わないと行けないんですか?」
「知るかそんな事。どうでもいいから手を動かせ。阿片を取り続けろ!」
「はい……了解しました」
そして、また一日が終わる。
「今日のノルマはこれだけだ。解散!!」
「はーいお疲れさまでした〜」
奴隷達は疲労困憊だった。
「飯食って寝るか」
奴隷の一人が呟く。
奴隷達は貴重な労働力だ。食事の質は高い。病気になる事は許されないからだ。
エルフの回復魔法は強力だ。仮に病気になっても瞬時に回復され作業に復帰だ。仮病も使えない。だが、精神的に参る者は多い。
毎日毎日同じ事を繰り返せば誰でもそうなる。
「明日から休みだからな。ゆっくり体を休めるといい」
エルフ達は奴隷達に同情している訳では無い。
ただ、彼等が壊れると薬の製造に支障が出るから言っているに過ぎないのだ。
「やったぜ!久しぶりに風呂に入れるな」
「そうだな」
「今日はゆっくりと眠れますね…」
奴隷達の健康管理は完璧だった。何よりヤクの品質上衛生管理は重要だった。風呂が嫌いでも無理矢理入らせた。
精神が病み眠れない者は睡眠薬で眠らせた。異世界から抗うつ剤も召喚し飲ませた。病む事は許されなかった。奴隷達は心身共に疲弊していた。
(ここは地獄だ……)
奴隷魔法により絶対服従を強制されていた。逆らう気力など無かった。ただ淡々と阿片を集め続けた。
ある日、一人の奴隷がふと思った。
「どうして俺はここに居るんだろう?何の為に生きているのだろうか?」
答えは出なかった。だが、一つ確かなのは自分が生きる意味を見いだせないという事だけだった。
次にコカイン製造を紹介しよう。
ご存知のようにコカインはコカの木に含まれるアルカロイドの一種である。
原料となるコカの木は海抜500m〜800mの山の斜面で栽培され、年4〜6回葉を収穫する。気温が低く降水量の少ない地域で栽培される。湿度が14%を越えると収穫したコカの葉が発酵しコカインが破壊される。
標高が高く湿度も低い環境で奴隷達は働く。
「寒…!」「ほら、手を動かせ!」
「すみません……」奴隷達はコカの葉を丁寧に切り取る。
酸素の少ない高地での収穫作業は大変だ。高山病で倒れる者も多い。倒れると直ぐに回復魔法で強制的に回復させられ作業を続ける。
「……」
「おい、手が止まっているぞ!」
「す、すいません!」「寒い...」
「黙れ!文句を言う暇があったら手を動かせ!」
「はい、分かりました」
次の日……。
「今日は乾燥を行う!!」
奴隷達は収穫したコカの葉を並べて天日で乾燥させる。湿度が高いとコカの葉が発酵してしまいコカインが破壊されてしまう重要な作業だ。
「早く並べろ!」「もたもたするな!」
「はい!」「うぅ……」
「おい!早くしろ!!」
「申し訳ありません……」
「チッ!」
「おい、そっち終わったならこっち手伝え!」
「はい!」
乾燥が終わった次の日…
「今日でこの作業も最後だ!全員しっかりと働け!」
「はい!」「了解です!」
「おい!早くしろ!!」
「はい!」「分かりました!」
最後の工程に入る。
コカの葉が乾燥するとコカの葉を潰し糊状のペーストにする。
設置したコンテナにコカの葉を敷き詰め炭酸ナトリウムと水を加えて灯油を中に加えて足で踏む。コカの葉からコカインを灯油に溶かすのだ。
コカの葉と灯油の混合物を奴隷達が踏みつける。ひたすら混ぜ続ける。
そして更に次の日……。コカペーストが完成する。
コカペーストはコカインを30%含む物質だ。コカペーストはエルフの森に送られ熟練の技術者がコカインへと加工する。
コカペーストから塩基コカインへ、塩基コカインからコカイン塩酸塩へ加工し見慣れたコカインの完成だ。
奴隷の仕事はコカペーストを作るまでだ。彼らは標高600mの山で年6回の収穫を行い続ける。彼らが山から降りる事は二度と無い。
彼ら奴隷達はエルフの森から出ることは永遠に無い。
「さあ、お昼ご飯ですよ」
「はい、ありがとうございます」
「しっかり食べて午後からも頑張りましょうね」「はい」
奴隷達は食事を摂る。
(これが俺の人生か)
食事は美味しかった。だが、心は空っぽだった。
奴隷達は今日も働く。心を無にしながら。自分達の故郷の売られる麻薬を作りながら。
奴隷達は寿命以外で死ぬ事は無い、エルフの回復魔法で無理矢理生かされ続ける。寿命が尽きるその日まで麻薬を作り続ける。
ジャンヌは奴隷達が育てマリファナの試作品を試していた。
彼女はジョイントを巻き火をつけて吸っていた。
「どうですか?」
「まあまあかしらね」
「そうですか」
「少しグレードが低いわね」
「品種改良するわ」
「お願いね」
エルフの求める品質は非常に高い。妥協は許されない。
大麻は品種により品質が左右される。
「次の品種よ」
素早くジョイントを巻き吸う。
「これはまあまあね」
(良かった……)
ジャンヌが満足してるならそれは良いマリファナだ。
「次はこれね」
また別の品種のマリファナを渡される。
「…………」
「どうかしました?」
「いえ、なんでもないわ。続けて頂戴」
「じゃあ次はコレね」
その後、マリファナは様々な種類を試された。
最後に吸ったマリファナは最高の出来であった。
「これは素晴らしいわ……」
「凄くいい匂いですね……」
「えぇ……素晴らしい香りだわ……」リリアンヌも気に入った様だ。
「この品種を売る事にするわ……」
「本当!?」
「えぇ、直ぐに手配するわ」「やったー!」
こうして、今までで一番のマリファナが完成した。
早速村長に見せに行くことにした。村長もそのマリファナを絶賛し、販売が決定された。
とある国のとある都市
汚い身なりに男達がコソコソ話をしていた。
「あるか?例のアレ」
「あるぞ、金はあるんだろうな?」「勿論だ、ほらこれだ」
男は金貨を手渡すし薬を受け取る。
「確かに、毎度あり」
「おう、今後も頼むぜ」男たちは笑い合う。
とある安宿では…
「クフッ……ヒヒッ……」
「アヒャッ……イヒィッ……」
「ウヒョッ……キャッハハッ……」
「やべっ……我慢できねぇ……ブヘヘッ!」
「キメちまえよ!ギャハハ!」
薬物中毒者だらけの部屋で酒を飲みながら女を抱く者もいれば、ヤクを吸いながら乱交する者もいた。ここはあらゆる欲望が渦巻き、薬物と快楽が支配する。
一方エルフの村では…
ボコボコボコボコボコボコ……
「ふぅーーーーーっ…」ジャンヌは水パイプでマリファナを吹かしていた。
ああ…美味しい…最高だわ……。
「あぁ〜幸せ〜」
「最近機嫌が良いみたいですけど何かあったんですかね?」
「さあ?」
「ひょっとしたら恋かも知れませんね」
「まさか、そんなわけ無いでしょう」
「ですよね」
リリアンヌとジャンヌは他愛も無い会話をする。
「あっ、もうこんな時間だわ、そろそろ寝ましょう」
「そろそろ寝るかぁ…」
ジャンヌは寝る前の一服を水パイプでマリファナをふかしていた。
「あぁ……素敵……本当に素敵な世界だわ……私はなんて幸せなのかしら……」
彼女はトリップしながら眠りにつく……。
エルフの森は今日も平和だった。奴隷達の心は空っぽだがエルフ達の心は満たされていた。
きっと明日も平和だろう。明後日も平和に違いない。
エルフの森はラヴ&ピース
-END-