ここは剣と魔法のファンタジーの世界にあるエルフの森。 その昔、エルフは人間よりも優れた魔法技術を持っていたのだが、邪悪な魔王の手によって重度のジャンキーになる呪いをかけられてしまい、今では見る影もない。
エルフの村では今もなお薬物の製造と密売で潤っている。
エルフの森は広く司法の手が届かない無法地帯で、違法薬の販売所や阿片窟まで何でもあった。
エルフの森は世界中から麻薬ディーラーが集う世界の麻薬供給源になっていた。麻薬撲滅を掲げる政治家や貴族は暗殺された。この森には合法も非合法もなく、全てがごちゃ混ぜになって存在していたのだ。そして今宵もまた
「いらっしゃいませー! 今日入荷したばかりの新商品だよ!」
エルフ商人の声に客が集まる。
「こっちは何だ?」
客の一人がエルフ商人の持つガラス瓶を見る。中には透明な液体が入っていた。
「こちらはエリクサーです」
それを聞いた客達がどよめく。
「おいおいマジか!? 本物だろうな!?」
「もちろんですよ! 効果は折り紙付きですぜ旦那!!」
エリクサーとは万能回復剤と呼ばれる究極の回復アイテムである。どんな傷でも病でもたちどころに治すという代物だった。英雄譚などでお馴染みであるが現実に存在するなど夢にも思わなかった。しかし目の前のガラス瓶に入った謎の透明水はそんな物が本当に存在するのか疑わせるほど安っぽかった。
「値段次第だね……いくらだい?」
「一本大金貨二枚だ!」
(ふむ……)
店主の言葉を聞きながら男は懐に手を入れる。そこから金貨を取り出してカウンターに置いた。
「はい毎度ありぃ~!! 」
店主はまたエリクサーを売り続けてた。
エルフの森では遂にエリクサー生産を始めていた。
エルフ達は異世界から製薬会社の製薬工場ごと召喚しエリクサーの大量生生産をしていた。エルフの森の奥深くに建設された巨大な施設の中では日夜、作業員達の必死の生産活動が行われていた。
彼らはこの世界には存在しない知識を駆使して薬を作り続けていく。
その作業内容は多岐にわたり複雑なものだったが、召喚された薬品会社のロボットによって全て自動化されていた。
作業は機械が行うため人手はいらず、昼夜問わず休みなく稼働し続けた結果僅か半年ほどで安定供給が可能となった。
しかも一日に作れる量は膨大であり、製造工程を大幅に簡略化したこともありコストは大幅に低下していた。材料費はかかるものの人件費はほぼゼロに近い状態で大量生産が可能になったのだ。
こうしてエルフの森で作られた大量のエリクサーは世界中に出荷されていくことになった。
エルフ達にとっては正に笑いが止まらない状態となっていた。
次にエルフ達は新たなビジネスを始めた。それは偽金作りである。偽造通貨の作成は最も難しく、犯罪行為として認知されている。だが今のエルフ達にそのような概念はなくただ楽して稼ぐことを望んでいただけだった。
異世界から印刷工場を召喚し奴隷達に紙幣の偽造をさせた。彼等にとって難しいことは何もなかった。輪転機の前に座りボタンを操作するだけで次々と紙幣が製造されていったからだ。出来上がった札束は全て保管され必要に応じて使用されることになっていた。こうしてエルフの森では紙幣が大量に流通するようになり、更に莫大な利益を生み出していた。
新しい紙幣が発行されれば即座に偽造した。異世界の印刷技術は素晴らしくどんな紙幣も製造できた。
エルフ達はまた新しくビジネスを思い付いた。今度は煙草であった。今度は嗜好品である。これを流行らせることによりさらに金を儲けようと考えていたのだ。
今のタバコはパイプに入れて火を付け吸う刻みタバコしかなかった。エルフ達は異世界の紙巻きタバコに目を付けた。
ポケットから取り出し火を付ければいつでもマイルドな煙が吸え手軽だ。煙をマイルドにするフィルターの存在も大きかった。
エルフ達は早速異世界からタバコ製造工場を召喚した。
エルフの森煙草製造工場は瞬く間に完成し量産が開始された。そしてあっと言う間に普及していった。
最初の内は小さな火種であったがやがて徐々に広まっていき爆発的なブームとなった。
特に王侯貴族や権力者を中心に流行ったことからたちまち一大産業へと成長していくことになる。
これにより更なる巨額の富を得ることとなるのだ。
エルフ達はさらに新しいビジネスを始めた。次は娯楽事業だ。
今までは麻薬や覚醒剤などの違法薬物ばかりだったが、次に目をつけたのはギャンブルだった。異世界からバカラ賭博や花札トランプなどギャンブル用品を召喚し各街に賭博場を開帳していった。
どこの街のマフィアもエルフの傘下組織であり賭博の経営もスムーズに行った。賭場の胴元になれば毎月多額の配当が得られるのだ。
エルフ達は異世界からどんどんビジネスを学んで行った。
次にエルフ達が新たに始めたのは金融業である。闇金だ。これはヤクザや悪徳商人などが顧客となり多大な収益を上げた。金が返せないヤツには麻薬を売らせて返済させた。そうやって稼いだお金を使いさらなる商売を始めるのだ。そしてまた儲かり次第に資金を増やしていった。
エルフ達はまた新しい商売を思いついた。抗生物質の販売だ。
人間達は細菌やウィルスによる感染症で死ぬ者は後を絶たず、毎年数十万人もの死者が出ていた。エルフ達はそんな者達に特効薬を与え治療した。しかしそれだけでは終わらなかった。エルフ達は医学の知識があったのだ。エルフ達は菌の研究を始め、独自の抗生物質の開発に成功した。
完成したのは肺炎球菌に対する抗生物質である。この世界にある既存の薬草とは全く違う全く未知の成分だった。エルフ達は開発した抗生物質を最初は安価に売り捌き普及させた。
抗生物質ありきの治療になったら今度は超高額な金額に釣り上げた。
こうしてエルフの森はあらゆるビジネスに手を出し大成功を収めた。
しかしまだ満足していなかった。もっと稼ぎたいと思っていた。
エルフ達は結局麻薬ビジネスをまた始めた。阿片の輸出だ。
人間の国の街にいくつもの阿片窟が出来た。エルフの森製の阿片は中毒性が異常に強く、一度手を出せば二度と抜け出せない魔性のドラッグだった。ほんの少しだけヘロインを混ぜてあったのだ。
エルフ達が作った阿片は普通の物より遥かに抑制作用が強く依存性が高かった。阿片窟では連日多くの人間が阿片を吸い続けた結果、廃人になる者が続出した。だがそれすらもエルフ達の知ったことではなかった。むしろそれを歓迎していた。阿片は儲かるからだ。
人間達は阿片窟で料金を支払い阿片を買う。
買った阿片を持ちランプの周りに寝転がる。店から借りた煙管に練った阿片を入れランプの火で炙って煙を吸う。
強い快感が襲い掛かる。混ぜてあるヘロインによるラッシュだ。一瞬にして理性を失い快楽に溺れていく。
人間は阿片の禁断症状により、やがて衰弱し廃人になり最終的に死に至る。
エルフ達にとっては最高のビジネスだった。
阿片の販売は阿片窟以外にも売れた。戦争で使う兵士たちが痛み止めに使うのだ。アルコールで溶かした阿片チンキ剤が兵士たちの心を癒した。
阿片チンキ剤を服用すれば痛みがピタリと止むのだ。兵士は阿片を喜んで使った。何より戦争の罪悪感も阿片が心を満たし癒した。そして大量に消費され続けた。阿片は戦場の必需品となっていた。
戦争は激化し新たな需要が生まれた。軍民問わず皆が疲労していた。食べる物も不足していたが働かなければならない。彼らは薬局でヒロポン錠を求めた。
数錠飲めばたちどころにやる気がみなぎり疲労は取れ空腹感も感じなくなる。ヒロポン錠は売れに売れた。
一瞬の油断が死に繋がる戦場では兵士に愛用された。恐怖もヒロポンが拭い去った。
ヒロポンで眠れない兵士は阿片チンキ剤を飲んで寝た。
負のスパイラルは完成していた。もう誰にも止められなかった。
こうしてエルフの森は繁栄を続けていった。
エルフ達は冷ややかな目で人間達を見ていた。自分達の儲けの為に殺し合いを続けている愚かな種族だと。
エルフの森は平和だった。エルフの森はいつも通り麻薬ビジネスを行いながら平穏な日々を送っていた。
ジャンヌはマリファナを吸いながらリリアンヌのおつまみを作っていた。久しぶりの普通の料理だ。今日は牛肉の燻製を薄く切り塩コショウを振りかけたものだ。それにポテトチップスとビールだ。
「お待たせしました」
「待ってました!」
2人は早速食べ始める。美味しい! やっぱり食事はこうでなくっちゃね。ポテトチップスが美味しい。リリアンヌは可愛い。マリファナも美味しい。幸せだわ。
「ジャンヌ、今度一緒に旅行に行きませんか?」
「良いですけどどこに行くんです? まさかエルフの森じゃないですよね?」
「違いますよ。実は最近温泉が流行っているんですよ。だから温泉街に行こうと思っています。私ずっと行ってみたくて……ダメですか?」
えっ何この子可愛すぎるんだけど……。
「全然大丈夫ですよ。行きましょう。楽しみですね。そうだ。水着買いに行きましょう。絶対必要になりますから。あーでも私そういうセンス無いからなぁ。どうしようかな……」
ジャンヌは頭が混乱していたが、確かな幸せを感じていた。
落ち着け落ち着け自分、まずマリファナを吸って落ち着くんだ。
ジャンヌはボングの火皿にマリファナを詰め火を付ける……ボコボコボコボコ……
「フゥゥーーーーー!」いいぞ落ち着いてきた。さて冷静に考えてみる。
リリアンヌと温泉?いかんいかん脈拍数が上がってきた…落ち着け…ボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコボコ…………
フゥゥーーーーーーーーー!!
落ち着いた。さて現実逃避はここまでにして考えるべきことがあるだろう。それは何か。答えは一つしかない。
リリアンヌの裸を見れるチャンスである。
今まで散々見てきたとはいえ、これは間違いなく合法的に見ることが出来るのだ。しかも彼女の方から誘ってくれているのだ。
ああ、なんてラッキーなんだ…ジャンヌは薄れ行く意識でそう思った。ジャンヌは酸欠で意識を失った。
エルフの森は今日も一日平和だった。明日もきっと平和だろう。明後日も平和に違いない。
エルフの森はラヴ&ピース
-END-